工学部社会基盤工学科 准教授 出村嘉史
大学のエントランスを入って正面にあたる「大学の顔」となっている場所なので,既にお気づきの方も多くいらっしゃると思いますが,昨年末にここへ投稿しました図書館南の「交流の泉」周辺の場づくりが,また一歩進みました。
昨年度に羽島の財団である国際クラブから井戸施設「交流の泉」を寄付いただき,今年度にその周辺の場所をつくることに再び支援を頂いています。
ただし,ただモノを設置するのではなく,大学にいる人々の関わりで,だんだんに出来上がっていくプロセスづくりがよいと計画しました。昨年11月のWeekend Carpenters'Fesでは,多くの学生・留学生たちの参加する中,岐阜県産の杉材による壁格子ができ,背後が軽やかな雰囲気となりました。当日の様子はこちら(2016.12.07 交流のための場をみんなで創ろう!)から。
ただし,これだけではまだ壁と井戸の平面的な関係しかないので,人の空間は保障されません。それで,続けて狙った場所へ植樹をし,既存の木々と合わせて緩く囲まれ,適切な日陰のある居空間を作ることが,有志学生たちにより計画されました。
これがキャンパスマスタープランを司る施設マネジメント推進委員会,大学執行部でも認められ,いざ再び場づくりを実行することに。
大学内によい感じの植樹をする!ということで,強いお力添えを頂いたのは,柳戸試験林のみなさまでした。大学北部にある試験林に植えられている中で,よさそうな木を選んで移植するアイデアです。
Weekend Carpenters' Fesもそうでしたが,このようなプロジェクトは,異なる立場の人たちが,あれこれ議論しながら,新しい地平を生み出すことに面白さがあります。
樹種の選定についても,大いに議論しました。できれば,交流の泉まで日陰に入るようにしたいので,できるだけ樹高はある方がいい。しかし,大きくなるとそれだけ移植に失敗する可能性も高まります。図書館南の地質はどうなのか?木にとって過酷な環境になりうるけれども,それでもやるのか?など,ある意味前代未聞の大学の顔づくりに取り組む中で,それぞれ希望と不安の入り混じる,振り返れば面白い時間でした。
しだいにアイデアが固まっていく中で,選ばれたのは,単独樹ではなくて,たまたま試験林に育っていたケヤキとトウカエデが1箇所に育っている株でした。
これなら,いくつかは根が付かなくても,中に育ってくれるのがいるかもしれない,という希望もありましたし,1箇所から上へ開くように生えている株の姿が感覚的に「おしゃれ」な空間を演出しそうに思えたからです。
さらにいくつかの種を混ぜて寄せ植えすれば,時間の経過とともに小さな植生遷移もみられ,次第に当を得た植生になってくれるかもしれないと,そう願いました。
2017年2月28日。
試験林の石田先生はじめ職員の方々や有志学生(と私)たちで,狙った株の堀上作業が行われました。
作業に慣れている人もあれば,まったく初めての人もいて,真剣かつ楽しく作業は進みます。
スコップやバックホウ(パワーショベル)で株の回りを掘り,背の高い木を横に引きずり倒すようにして土のついた根を丸ごと外に出し,ムシロや荒縄で包みます。
こうして出してきた木々を,移植する現地へ運ぶところまで,この日のうちに出来ました。
これで植える日までおいておくことになるので,祈るような気持ちで包んで終わりました。
2017年3月4日。
植栽する場所のタイルとその下のコンクリート被覆を取り,土を入れ替える分の穴をあける作業が行われました。
さすがにこれは,DIY的な参加は難しかろう,と業者さんにお願いしましたが,タイルの下に潜んでいた15㎝ほどの厚みのあるコンクリートを割って取り除く作業は,学生たちにも(私にも)参加可能で,興味津々。
一つには,機械力(ハンドブレーカー)で粉砕する方法があるのですが,主に用いたのは,石切り場で石を割るのと同じ要領でセリ矢という昔からある小さな道具で狙った方向に割っていく方法でした。
力だけでなく,知恵で比較的容易にできるこの方法にクールさを感じるこの一団は,既に相当マニアックかもしれません。
最後はバックホウで1mほどの深さまで掘り,この日の作業を終えました。六角形の綺麗で大きな穴に大満足。
2017年3月6日。
ついに植樹を予定していた日です。
ところがこの日は,朝から不穏な空気が流れていました。2日前に大満足で掘った穴でしたが,地下の土質は粘土を多く含んでいて,前日に入れておいた穴いっぱいの水が抜けるのに非常に時間がかかることが明白になりました。
そもそも地下水位が高く,水はけが悪いところなのですが,これほどとは!底に穴の開いていない植木鉢に植物を植えるようなものです。下手をすると容易に根腐れを起こしてしまうでしょう。あわや中止か?というところまで,心配は高まりました。
ですが,どれほどの雨が降っても,この穴をいっぱいにするほどの雨の集まる場所ではないですし,まったく水が抜けないわけではないので,ともかく移植までは全うしよう,と議論の結果,前向きに。
ただし,この点は,よく覚えておかないといけません。
恐らくこの日に植えた株が全て満足に生育する可能性は低いでしょう。
春に芽が出てくれたら,感謝!
もしも全てダメだったら,可能なものに植え替えていくしかないかもしれません。
しかし,生き残ってくれるものがあれば,それらの中で,次第に適切な植生となっていきますように。
水に強い樹種も併せて置こうということで,応用生物学部の中庭に植えてあるオオバコナラを2株,それに加えて50㎝ほどの小さな苗を一緒に寄せ植えることを,石田先生の提案で足しました。
これらの苗は,応用生物学部の学生たちの演習で,採取したドングリをポットに入れて発芽させ,育てたものだということです。また物語が加わりそうです。
この日の作業は,主として試験林の方々と有志の学生が集まりました。
大きな穴の底には,学内で拾ってきた礫(やや大きめの石ころ)を敷き,一緒にビート土を入れました。
その上に購入した土と,移植元の土を混ぜて入れ,そこへ用意してきた株を寄せ植えしました。
六角の穴の縁のデザインは,その場でもあれこれ議論がありましたが,シンプルにその場で切り出した杉板を当て,それを頼りに土を少し高盛するようにしました。
果たして完成!
出来上がりは,満足のいく「おしゃれ」な雰囲気になったと思います。
あとは,できた場にチェアやテーブルを配置すれば,楽し気になるでしょう。
春にはできるだけ多くの株から芽が出ますように!!
おまけ。
今回ご尽力いただいた岐阜大学柳戸試験林の技能人,太田さん作成の天然木チェアをこの付近の遊水池の緑地に置かせていただきました。なんと,チェーンソーで製作したそうです。
緑地の小径の傍らの木陰で,よい味を出しています。